Product for Future.
井浦新がキーンに描いた、屋久島の森の意味。
〈エルネスト・クリエイティブ・アクティビティ〉を主宰する井浦新さんと〈キーン(KEEN)〉が再びタッグを組み、冬用のブーツ「HOODZERRA WP」のコラボレーションモデルを完成させました。共作する度に両者の関係性は濃密になり、環境へのアプローチの深度も増していくなか、井浦さんが今作に込めた思いとは。
- Photo_Kei Fujiwara
- Text_Keisuke Kimura
- Edit_Hiroshi Yamamoto
汎用性よりも専門性に惹かれてしまう。
井浦さんと〈キーン〉は、長いこと一緒に取り組みを行っていますよね。
井浦2011年からスタートしているので、もう10年以上になりますね。
そのなかで、冬用のモデルのコラボレーションといえば、直近だと「WINTERPORT Ⅱ」ですか?
井浦そうです。2019年に作らせてもらいました。
そして、今回コラボレーションしたモデルが、「HOODZERRA WP」です。なぜ「HOODZERRA WPで作ろうと?
井浦まず、ここにある「HYDRO GUIDE」が12、3年前に登場したときに、ストラップの仕様やほかの機能も革新的で、「ついに来たか!」ってくらい感動したんです。それから10年以上経過して、自分のなかのいいものが更新されていくわけですけど、昔好きだったものはずっと核にある。だったら、いまの技術や素材を使って、それをアップデートさせようと思い、「HOODZERRA WP」のコラボレーションをお願いしたんです。
「HYDRO GUIDE」をベースにしたものだと、ダメだったんでしょうか?
井浦当時のものをそのまま復刻させたら熱狂的なファンの方は喜ぶと思うんですけど、〈キーン〉も懸命に商品開発をして、その時代時代で新しいものを作っている。だったら、クラシックのいいところを持ってきつつ、最新の技術や素材で作ったほうが、多くの人に喜んでもらえると思ったんです。
それと、ぼくって汎用性のあるものより専門性のある靴が好きなんです。気に入って履いている「PYRENEES」は山用だし、「HYDRO GUIDE」は水辺用。そうした意味でも「HOODZERRA WP」は冬に特化したものだから、単純に好きなんです。
その基準は、井浦さんらしいですね。
井浦なので、ぼくらが共作するものって廃盤になる確率が高くて…(笑)。
(笑)。でも、そこにくすぐられる気持ちはわかります。今回の「HOODZERRA WP」は、テキスタイルがインラインのものと違うんですね。
井浦そうです。「YAKUSHIMA FORESTRA CAMO」のテキスタイルを全面に採用させてもらっています。
屋久島のテキスタイルに宇宙を見る。
改めて「YAKUSHIMA FORESTRA CAMO」とはなんなのかを教えてください。
井浦屋久島に、太忠岳という山があるんです。ちなみに山頂には、天柱石という40メートルの岩があって、それがもうガンダムくらいの大きさなんです(笑)。で、「YAKUSHIMA FORESTRA CAMO」のテキスタイルには、その太忠岳を登る過程で出会った屋久島の固有の植物や動物、自然を配しているんです。
「CAMO」はカモフラージュの略だとわかるのですが、「FOREST(森)」ではなく「FORESTRA」とした理由は?
井浦屋久島は島であることに加えて「1ヶ月に35日雨が降る」と言われるほど、特異な自然環境なんです。そのなかで、固有の植物が成長し、枯れては土になり、また芽吹いてを繰り返す。それを何億年と繰り返してきてる場所なんです。
実際に屋久島の森に入ったときも、倒木から新しい芽が出ていたり、切り株に苔がむしていたりしてるのを目にしたときに、命の循環を感じられたことに加えて、森のなかが「宇宙の縮図」のように感じることがあって。
宇宙の星々も、途方もない年月をかけて生まれては消えてを繰り返し、いまの宇宙を形成しているわけですけど、屋久島の森はその宇宙の営みをギュッとした場所だなって。そのインスピレーションからFOREST(森)とASTRA(宇宙)をかけあわせて「FORESTRA」という言葉を作ったんです。
ちなみに、一見すると緑だけなのですが、太忠岳の天柱石なんかも組み込まれてますか?
井浦バックグラウンドに配置していて、その上に動植物をコラージュしていってるので、隙間に見え隠れしていますね。
柄も一足ずつ違うということですね。
井浦そうです。
ヤクシマザルやヤクシカもいますか?
井浦実はちゃんといるんですよ。インソール部分に。
これは知らないと気づけないかもしれませんね(笑)。
井浦どうしても踵で踏みつけたくなかったので、土踏まず付近に忍ばせています(笑)。
実際に「HOODZERRA WP」の履き心地などいかがでしょう?
井浦マイナス20度まで耐えられるスペックがあるし、完全防水で、とにかくあたたかいです。それと、アウトソールの部分の素材が変わってるのわかります?
つま先と踵部分の素材が違いますね。
井浦そうなんです。実は寒い場所に行くとソールって硬くなってしまって、雪や氷で滑りやすくなるんですけど、このソールは硬くならない。寒い場所でも柔らかさが残るからグリップ力が落ちないし、雪や氷の上でも滑りにくいんです。都会の人もですけど、雪が降る東北や北海道の人には特におすすめしたいですね。
未来のその先へと繋げていくものづくり。
ところで井浦さん、季節だといつがお好きですか?
井浦今回のコラボレーションのこともあるので、冬が好きと言いたいんですけど、ぼくは季節というより、とにかく花鳥風月が好きなんです。
なるほど。
井浦やっぱり自然の美しさとか、 動植物の生命感とか、そういったものにすごく惹かれるし、憧れるんです。
井浦さんといえば縄文文化への造詣が深いですが、そこにも花鳥風月を大切にする精神性はあるんでしょうか?
井浦縄文文化は自然と共存、共生していくことを1万年以上続けていたので、その精神性は間違いなくありますよね。
ちょっと話は変わりますけど、いま気候変動や異常気象、環境問題が大きく取り沙汰されていますよね。縄文人の精神性には、その手助けになるヒントがたくさん隠されているとも思うんです。
環境の話で言うと、〈キーン〉のプロダクトもリサイクルの素材を積極的に使って、環境への負担を極力少なくしていますよね。
井浦だからぼくは〈キーン〉のデザインはもちろん、環境問題に早い段階から真摯に取り組んでいる姿勢にすごく共感できるし、素敵だなと思うんです。
井浦それと、今回作らせてもらった「HOODZERRA WP」には屋久島の豊かな自然が描かれていますけど、このシューズをきっかけに、屋久島に足を運んでくれたらとも思うんです。そして実際に屋久島の自然を体感してもらえれば、美しい自然を大切にしたいとか、自分の子供や孫にも残したいという思いが生まれてくる。そこから、その人たちの意識が変わって、少しでも環境に負担をかけないライフスタイルになってくれたら、作った甲斐がありますよね。
消費したあとの、その先も考えているわけですね。
井浦文字だけじゃなく、やっぱり自身で体験するのが1番なので。〈キーン〉の理念と同じく、ちゃんと自然の中で遊んで、自然の豊かさや美しさを知って畏怖の念をもてば、その先に繋がっていくんじゃないかなってぼくは信じてるんですけどね。
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