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FEATURE
縄文時代発、ELNEST経由の一足に込めた、 こんな時代だから日本人に気付いて欲しいこと。
FEATURE

ELNEST meets KEEN “HOWSER SLIDE”.

縄文時代発、ELNEST経由の一足に込めた、
こんな時代だから日本人に気付いて欲しいこと。

〈エルネスト・クリエイティブ・アクティビティ(ELNEST CREATIVE ACTIVITY)〉と〈キーン(KEEN)〉がコラボレーションするのは、今年でもう9年目。「年々自分の中でもハードルが上がっている」と、ディレクターの井浦新さん本人が語るように、毎回インラインでは決して見られない“ならでは”の仕上がりが話題を呼んでいます。そんな中、今年発表されたモデルのテーマは、なんと「縄文」。それを聞いただけでもただならぬ雰囲気を感じますが、その制作の裏側には一体どんなストーリーや想いがあるのでしょうか。最近リニューアルしたばかりだという旗艦店「MIGHTRY」で、直接ご本人に聞いてきました。

  • Photo:Yuji Sato
  • Text:Jumpei Ichikawa
  • Edit:Jun Nakada
  • Special thanks:Mightly

井浦新

1974年生まれ。東京都出身。俳優、〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。ジャパンメイドにこだわったウェア展開や、日本の伝統工芸継承のためのモノづくりを企画し、現代ならではの新しい価値を創出。1998年、映画『ワンダフルライフ』に初主演して以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活躍。近年の主な出演映画に『赤い雪 Red Snow』、『嵐電』、『こはく』、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』、『宮本から君へ』、『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』など。直近の公開作では、映画『朝が来る』(10月23日公開)、映画『ウルフウォーカー』(10月30日公開)、WOWOWオリジナルドラマ『殺意の道程』(バカリズム・井浦新 W主演)がある。
www.instagram.com/el_arata_nest/

縄文土器に感じる「生命感」。

ELNEST CREATIVE ACTIVITY × KEEN「HOWSER SLIDE」
¥7,000+TAX(ONLINE STORE

前作のインタビューをさせていただいた際に「次はもっとすごいことになりそう」とだけ伺ってましたが、ついに見ることができました。

井浦そうでしたね(笑)。今作は見たまんま「縄文」というのが大きなキーワードになっています。〈エルネスト・クリエイティブ・アクティビティ〉でも今までグラフィックとしては取り入れたことがあったのですが、テキスタイルでは初めて。自分の中で温めていたアイデアで、いつか必ず縄文テキスタイルをという思いはずっとあったんです。それを今回〈キーン〉さんお力添えのもと、ようやく形にすることができました。

そもそも新さんが縄文文化に興味を持ち始めたきっかけというのは?

井浦1万3000年間という長きに渡り続いた歴史もそうですが、最初は他の多くの人と同様に造形ですね。縄文時代ってよく草創期から晩期に分けて語られるんですけど、その中でも中期に作られた土器や土偶は、とりわけ造形自体に迫力があるんです。畝りもすごいし、人の手から生まれたことが信じられないぐらい精密で、且つ、力強い。そもそも時代によって、その特徴などもまったく異なるんです。

1万3000年間というと、もはや長すぎてまったくピンときません(笑)。

井浦例えば、NHKの大河ドラマや漫画でよく目にするのってここ1500~2000年ぐらいの話。それでも飛鳥時代から武家の時代、その後に鎌倉時代がきて室町などの戦国時代、江戸時代と、とても壮大です。それらを全部合わせてもたった1500年そこそこ。縄文はそれ単体で1万3000年ですからね(笑)、それはもう途方もない年月です。だから、他の時代よりもまだまだ解明されていない部分が多いんですけど、日本人の物作りにしても深く辿っていくと、ルーツは縄文時代に行き着くんです。もちろん江戸時代を筆頭に今に繋がる華々しい文化ってたくさん生まれているんですけど、その源流って縄文時代なんじゃないかと。それがいわゆる土器や土偶と言われるものですね。

確かに思い浮かべると、縄文土器や土偶の形ってすごく強烈ですよね。一度見ると脳裏に焼きつくというか…。

井浦僕が縄文土器を見て感じるのは、ひと言で表すと「生命感」なんです。あの畝った形状っていうのは自然界にある何かしら、具体的には蛇だったり、蕨だったり、山だったり、木だったり、イノシシだったりをモチーフにしているんです。だいぶデフォルメされていたとしても、そういうものからインスピレーションを得て、それを当時の職人たちがひとつずつ手で丹精こめて生み出してきた。だから多くの人がそれらを目にしたとき「強烈」という印象を持つんです。でもそれって僕にとっては生き生きとした生命感。岡本太郎さんの作品など現代アートにも繋がってくる部分ですが、とにかく力強さやみなぎる生命感・存在感みたいなものをストレートに感じるんです。

当時の縄文人たちはそれをどんな風に使っていたんですか?

井浦まずはお水だったり何かを発酵・乾燥させるための入れ物など、いわば生活用品として。またその一方で、祈りを捧げたりする神事の時だけ使う土器もあって、それらはすごく畝りが入ってて装飾もすごい。つまり日常用と特別な時で使い分けていたようなんです。ただすべてのことに対して、まだ確証はない。そういう部分を今わかっている事柄から想像していく楽しさがありますね。縄文好きからすると、そのわかってない部分に対して自分のたちの想像、イメージが果てしなく広げられる。そんなところについ惹かれてしまうんです。なんせ1万3000年間ですから(笑)。

そこまで自身がのめり込む縄文文化を実際のプロダクトに落とし込むとなると、相当苦労も多かったのでは?

井浦こちらの持ってるイメージやアイデアをぶつけることから毎回スタートするんですけど、それが現実的、物理的に難しいことも多々ある。ただ僕自身そういう壁が高いほど、どこか燃えてくるタイプというか(笑)。「これは出来ないけど、ここをこういう風に変えれば」みたいなセッションは今回も幾度となくありました。でも、そもそもこういったプロジェクトの制作段階でそうしたプロセスはあって然るべきだと思うし、〈キーン〉さんは毎回そういうディスカッションをすごく前向きに捉えてくれる。ご一緒させて頂くようになって今年で9年目になるんですけど、僕たち自身「無理難題をいつも言ってくる」という立ち位置を、ここ何年かで確立させて頂いた自負はあるので(笑)。そうした本音のコミュニケーションが取れる関係性をつくれていることは、とても感謝しています。

インラインにないような提案をできるかが大切。

以前の取材で「コラボレーションの本質的な意味を大切にしたい」と話されていたのが、今でも印象に残っています。

井浦もちろん僕も真っ黒のサンダルを選ぶことはあるし、そういう使い勝手の良いものを作りたいと思う時もあります。ただ、それなら今ある〈キーン〉さんのコレクションから選べばいい。毎年コラボレーションをさせてもらう側としては、いかにインラインにないような提案をできるかが大切だし、そのハードルを毎年ひとつずつ上げていかないと、続ける意味もなくなってきてしまうんです。だから一番最初の打ち合わせで〈キーン〉チームの皆さんを「なにこれ!?」って驚かせたいし、そこから何度も何度もセッションを繰り返してから生まれたシューズはきっと価値ある一足になる。だからこそ、そこに気持ちを込めることは妥協したくないです。その結果として「毎年僕らも大変、〈キーン〉さんはもっと大変」という状況になってしまうんですが…(笑)。

縄文1万3000年の文化を体感できる一足。

今作で、特に“この部分が”という思い入れを挙げるとしたら?

井浦この「HOWSER SLIDE」は、他のシューズのようにパーツがたくさんあるわけじゃなく、すごくシンプルに構成されています。だから、まずはこの縄文時代の様々なカケラを詰め込んだテキスタイルを素直に楽しんで欲しいです。あとは細かい部分にもしっかりと縄文時代の精神性を詰め込んでいます。例えばアウトソールの内側には当時の人たちが生活の道具として使っていた黒曜石の色を取り入れました。黒曜石ってガラス質だから色は黒いんだけど少し透明感もある。その黒曜石を鏃(やじり)といって、要は弓矢の先端に付けて使ったり、ナイフのように加工して使っていたんです。真っ黒ではなく少しグレーがかった色合いにしたのは、そういった理由があります。

そうなると、このインソールのグリーンも何か理由がありそうですね。

井浦このピーコックグリーンのような色味は翡翠(ひすい)から取りました。新潟の糸魚川から翡翠が取れるんですけど、それが日本各地はもちろん、台湾とか大陸の方でも遺跡から発見されているんです。つまり、当時の物々交換による文化交流の痕跡がそこから想像できるんです。アッパーは縄文土器の力強さみたいなものをイメージして、インソール・アウトソールでは当時の生活に根付いてる鏃や、神事など特別な時に用いられる翡翠を取り入れて、この一足全体で縄文文化、その精神を感じてもらえたらなと思っています。「縄文ってなに?」って人が圧倒的に多い中で、僕自身もそうだったように何かのきっかけで興味を持って欲しい。もちろん、すでに知ってる人はこれで足元に恍惚を得てもらえたらと(笑)。

まさに縄文1万3000年の文化を体感できる一足ということですね。

井浦そうですね。あと縄文を語る上で欠かせない重要なことがあるんですけど、いろんな研究結果からわかってきたのが、縄文人はとても優しい人たちだったということ。自然と共存・共生できる人たちはもちろん人間同士でも共生できるからこと、例えば、他の有名なエジプト文明やマヤ文明のように人間同士の争いで途絶えることなく、1万3000年という途方もなく長い年月をかけて繁栄することができた。それって世界的に見てもすごくレアケースなんです。縄文に生きていた人たちって、とても心優しくて、豊かな人たちだったんだろうなって素直に思う。そして、もちろん僕たち現代を生きる日本人もそのDNAを受け継いでいて、その血が流れている事を考えると、僕らもそれが出来るはずだなって思うんです。

そういった視点からみると、また新しい縄文の側面が見えてきますね。

井浦豊かな精神性を少しでも知っていくうちに、どこか自分自身も優しい気持ちを持てる。それって心が削られるようなコロナ時代になった今、すごく大切な気がしていて。例えば、SNSで誹謗中傷を見たりすることも多いけど、そういう時にパッと縄文を思い出すと、どこか優しい気持ちにもなれるんじゃないかと。人を慈しむ気持ちとか、自然に対しても征服するんじゃなくて共存することを真っ先に考えたり。そういう事を考えるきっかけを縄文は常に教えてくれるんです。

現代を生きる僕たちは、まだまだ縄文時代から学ぶべきことがたくさんありそうですね。

井浦そういう部分を少しでも理解した上で、この靴に足を入れてもらうとすごくテンションが上がるし、例えば街中で履いている人を目にした時でも、その瞬間に縄文時代に想いを馳せて優しい気持ちを呼び起こせる。僕にとってこの靴はそういう存在だし、その想いを一人でも多くの人と分かち合えたら幸せにだろうなって心から思います。もちろん今の僕も小さなきっかけから自分で色々調べて勉強してこうなってるので、すぐにすべてを共有できるわけはないんですけど、少なくともこの靴をきっかけとしてこの豊かな縄文ライフを送る人が増えてくれたら、すごく嬉しいですね。

INFORMATION

KEEN Japan
電話:03-6416-4808
keenfootwear.com
KEEN公式YouTubeチャンネル

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