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井浦新と葛飾北斎。タブーを破ったその先に生まれたシューズとは?
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10th Anniversary「KEEN × ELNEST CREATIVE ACTIVITY」

井浦新と葛飾北斎。タブーを破ったその先に生まれたシューズとは?

井浦新さん率いる〈エルネスト・クリエイティブ・アクティビティ〉(以下、エルネスト)と〈キーン〉とのコラボレーションが今年10周年を迎えました。俳優として活躍する傍ら、日本古美術への造詣も深い新さんが、その節目の題材として、満を持して選んだのが、“画狂老人卍”こと葛飾北斎。その浮世絵の世界観を新さんの感性で落とし込んだ、今回のコラボレーションモデル「ヴェンチャラー ウォータープルーフ」「YOGUI ARTS(ヨギ アーツ)」を交えて、その制作秘話を伺いました。

  • Photo_Shinji Serizawa
  • Text_Shinri Kobayashi
  • Edit_Jun Nakada

井浦新

ELNEST CREATIVE ACTIVITY ディレクター、俳優

1974年、東京都出身。モデルとしてキャリアをスタートし、映画やTV、舞台をはじめ活動は多岐に渡る。「旅」を通じて自然と街をつなぐアクティビティ・ウエアを提案する〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉では、日本の文化や伝統工芸、美術などを継承したモノづくりを企画し、現代ならではの活動を生かした、新しい価値を創り続けている。
www.instagram.com/el_arata_nest/

Tシャツ ¥5,500+TAX(ONLINE STORE)、(上)ヴェンチャラー ウォータープルーフ ¥17,000+TAX(ONLINE STORE)、(下)ヨギ アーツ ¥7,300+TAX(ONLINE STORE

「PLAY MORE」なコラボレーション。

1年に一足のコラボレーションというペースで、今年は10周年を迎えます。

井浦〈キーン〉は、出会って以来10年以上プライベートでもよく履いているシューズで、最初に買ったのは、ウッド柄の「ヨギ」とヘンプ素材の「ニューポート」だったのを覚えています。水辺でも旅でも使えて、なんて実用的で新しいんだろうと。その後、僕が〈エルネスト〉を立ち上げてから数年後、展示会などにお邪魔させていただくようになり、コラボレーションがスタートしました。

その中で、コラボレーションの意義を考えるようになったとか?

井浦質実剛健でどんなスタイリングにも合うのが〈キーン〉の特徴ですし、そういったコレクションが人気ですよね。〈キーン〉ユーザーである僕自身もそう。でも、せっかくコラボさせてもらうのなら、遊び尽くしたいなと。以前、アメリカで〈キーン〉の社長さんと対談させてもらったときにお聞きした、「PLAY MORE」という考え方にすごく共感したんです。この「もっと遊べ」という考え方は、クリエイションでもライフスタイルでも趣味でも、なんでも大事だと思います。

軸があるからこそ、遊べるということもありますか?

井浦そうですね。定番色は、〈キーン〉のコレクションで揃います。なのでコラボでは、そこから外れたものを考えます。これがなかなか難しくて、〈キーン〉の本筋はちゃんとぶらさず、かつそこを飛び越えていかなくてはいけない。〈キーン〉のみなさんに、「これ、変わっているね。面白いね」と言ってもらえるように、いつもチャレンジしています。コラボレーションは、重ねていけばいくほど、ハードルが上がっていくと思いますが、〈キーン〉チームを毎回驚かせたいという思いがモチベーションです。

一回一回が勝負のようなコラボということですね。

井浦だから、提案するときも、いつも意気込んでます。これまでには、技術、工程、タイミングなどなどの現実と折り合いがつかず、実現しなかったモデルもあるんです。でも、実現可能なその枠を知ることができるというのは大きい。

しかも、〈キーン〉側もすぐに無理とは言わず、実現する方法を現場でも検討を重ねてくれて、判断してくださる。もちろん実現しないこと自体は、残念だなとは思いつつ、残念を超えて、この方向で間違いないと背中を押してくれる感じがしています。僕は、靴の製造のプロじゃないので、〈キーン〉の真ん中とフチ、特にフチを知りたい。フチから外れてできない、というものこそ知りたいんです。

日本美術の帝王・北斎に挑む。

これまでにも数々の日本美術をテーマにした、コラボを重ねてきました。10周年モデルの2型で、葛飾北斎を選んだのはどうしてですか?

井浦葛飾北斎は、世界的にも著名な日本を代表する絵師で、いわば日本美術の帝王のような人。僕にとってのど真ん中であり、簡単にインスピレーションを受けて作れるような相手ではありません。大好きだけど、これまでのコラボでは、あえて触れないようにしてきました。でも、10周年ということで、自分の中のタブーを破るには、このタイミングしかないなと。

新さん所蔵の「諸国名橋奇覧 足利行道山くものかけはし」

新さんにとって、そんなに大きな存在なんですね。北斎といえば、「富嶽三十六景」などが有名ですが、なぜこの絵を選ばれたのでしょうか?

井浦まず前提として、この絵は僕が所蔵しているものです。例えばネットで画像検索をしたものや、他の誰かや美術館が所蔵している絵を使うのは、ルール違反だと思っています。あとは、今回のプロジェクトで、これまでアンタッチャブルだった北斎に向き合わないと後悔するなと思いました。

北斎の絵には、自然を描いたものは結構あるんですが、中でもこれは諸国名橋奇覧という、日本の摩訶不思議な橋を描いたシリーズです。諸国名橋奇覧も知る人ぞ知る、というわけではないんですが、ちょっと変わっていて面白い。この「(足利行道山)くものかけはし」という名前もいい。現在も、栃木県足利市に実在している橋で、実際に行ったこともあります。

シューズのこだわりのポイントなどを教えてください。まず「ヴェンチャラー ウォータープルーフ」は?

井浦〈キーン〉が作る最新のシューズに、日本の伝統色を配したら、どうなるかと最初に考えました。色の組み合わせや、どの部分にどの色を入れるか、とか。この絵の(山肌に使われている淡い緑)緑青(ろくしょう)という色は、苔などの自然を描くときに必ずと言っていいほど使われている日本の伝統色なのですが、それが僕は好きで。あとは、ベロ藍(プルシアン・ブルー)という、浮世絵で海や空を描くときによく使われているこの色を、緑青と対になるように使いたかったんです。

この絵は、浮世絵というフィルターを通して、描いた自然の絵なので、カラフルではあるけど、自然色でもあるわけです。いわばアースカラーですよね。だから、シンプルなスタイリングにも、原色使いのアウトドアらしいスタイリングにも調和しそうだなと。

「ヴェンチャラー」のインソールに、絵がプリントされていますね。

井浦毎回そうですが、インソールは、見えない遊びを忍ばせる大事な部分で、今回は北斎の落款が入っています。もはや〈エルネスト〉コラボというより、北斎モデルですね(笑)。

今季、「ヴェンチャラー ウォータープルーフ」と「ヨギ アーツ」という2型展開なのは、10周年だからですか?

井浦それもありますが、2つでワンセットにしたかったんです。「ヴェンチャラー」はカラフルですが、「ヨギ」が隣にあると、説明にもなって、答え合わせになる。もちろん、二足バラバラでもいいのですが、並べて置くと、その間に雲の架け橋が立ち上がるといいなと。

今回、「ヨギ」はキャンバスとして使っています。「ヨギ」というモデルは、履きやすくて、形としてすでに完成しています。もう機能美としては出来上がっているので、キャンパスとしてどう生かすかを考えたコラボですね。

わからないということは悪いことではない。

先ほど、この絵で描かれている場所を訪れたとおっしゃっていましたが、新さんは直に足を運んで見ることを心がけているんですか?

井浦そうですね。本物に触れること、例えば自然でもテレビなどではなく、本物の自然に直に触れるっていうのは大事ですよね。絵も図録ではなく、本物と出会って、触れることは大きな学びだと思います。自分の目で直に触れることが大切だと思うようになったのは、これまで旅を重ねてきたことが大きいですね。

前回のコラボのテーマが縄文文化であったり、プライベートでは民族のお面をコレクションされていたりと、奇妙なものがお好きですよね?

井浦そういったものを、僕は奇妙と思ってないんです(笑)。まあ、そう思っていることが、麻痺していると言えるんでしょうけど(笑)。奇妙というより、言い換えると、力強さや、岡本太郎さん的に言えば、生命力を感じるものが好きです。もちろんシュッとしたスマートなものも美しいと感じます。でも一方で、目を覆いたくなるものとか、一見しても理解できないものの中にも美しさはある。そこに良い悪いはありません。

ど真ん中にあるものは、みんなに届けられる存在感を持っていますよね。かたや、100人に1人しかわからないような、フチにあるものにも興味があるんです。わからないというのは、決して悪いことではなく、理解できないということを与えているんだと思いますし、僕はわからないということに感動します。そして、感動して、もっと興味を持つようになる、ということの連続で、気がついたら、フチにあるものを好きになっていました。

コラボレーションの10周年にまとめたTシャツについて聞かせてください。

井浦10年コラボさせてもらったことは感謝でしかないんですが、先ほど言った通り、一回一回が勝負のようなものでした。だから、僕自身がここで10年分をまとめて、振り返ってみたいなと。今までの足跡が一目で辿れるように、ということで、背中にこのイラストをまとめたTシャツがいいかなということで、作りました。

10年目のこれで終わり、というわけではないですよね(笑)。11年目、12年目…というこの先の展望はありますか?

井浦〈キーン〉側でも、10年前にはなかった新しいものを次々と開発しています。そういった新しい〈キーン〉のシューズに乗り遅れたくないと思いつつ、〈キーン〉のみなさんをこれからも驚かせ続けたいという気持ちは、変わらずあります。その先に、〈キーン〉でも使ってないようなパーツを使ってみたいし、なんなら開発してみたいです。それができたら最高です。

フチギリギリのコラボになりそうで、楽しみです(笑)。それにしても新さんは、お忙しい中、俳優とデザイナーという二足のわらじをどう使い分けているんですか?

井浦切り替えている感覚は、今やなくなってます。別のことをやりながらもちょっとずつ進めてます。5冊の本を同時に読んでいる感覚といいますか。あとは、〈エルネスト〉がチームだからできるんです。一人じゃまず無理。俳優も演技する時には基本一人ですが、そこに至るまで、作品ができるまでには色々な人のサポートによって成り立っています。どちらも人がいて成り立っているんだと思います。

ELNEST CREATIVE ACTIVITY × KEENコラボレーション10周年を記念し、制作秘話を紹介するスペシャルムービーが公開中。

INFORMATION

KEEN Japan
電話:03-6416-4808
keenfootwear.com
KEEN公式YouTubeチャンネル

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